ドローンとAIで船の点検を変える:エクサと東栄汽船が2026年11月に実証実験を開始
船の点検といえば、足場を組んで高い場所に登り、目視でサビや傷を確認する姿を思い浮かべる人が多いだろう。株式会社エクサと東栄汽船株式会社は、そうした船舶の保守・点検業務をドローンとAIで変えようとしている。両社は2026年10月29日、ドローンとAIを活用した「船舶保守・点検ソリューション」の実証実験を2026年11月に東栄汽船の所有船で開始すると発表した。エクサが開発を進める「フィジカルAIプラットフォーム」の最初の適用領域となる取り組みだ。
なぜ船舶の点検は難しいのか
船舶の保守・点検が難しい理由は、作業環境そのものにある。発表によると、船舶の点検は高所や狭い閉鎖空間での作業が多く、足場の設置と撤去に多くの時間とコストがかかる。さらに、点検結果の評価や判断は熟練技術者の経験や知見に依存しやすい。ベテランの目が頼りになる一方で、その技術を次の世代へ引き継ぐのは簡単ではない。人手不足が進むなかで、持続可能な点検体制をどう維持するかは、海運業界全体の課題となっている。
こうした背景から、今回の取り組みは単なる作業の効率化にとどまらない。ドローンを使うことで、作業員が危険な場所へ立ち入る機会を減らす。取得したデータをデジタル空間上に蓄積し、可視化することで、点検の評価や判断を属人的なものから、より客観的なものへ近づける。安全性の向上と判断の客観性向上、この二つが狙いの中心にある。
実証実験で検証する3つのポイント
今回の実証実験では、船体外板を対象に主に3つのポイントが検証される。1つ目は、ドローンによる3D点群データと画像の取得、そしてデジタルツインの構築だ。デジタルツインとは、現実の船体をデジタル空間上に再現した仮想モデルのことである。船の形や状態をデータとして持つことで、現場に行かなくても状態を確認できる土台ができる。
2つ目は、AIによるサビなどの異常検知と、デジタルツイン上での位置の可視化だ。画像からサビを見つけ出すだけではなく、船体のどの場所に異常があるのかをデジタルツイン上で示す。異常の場所が地図のように分かれば、補修の計画も立てやすくなる。3つ目は、船体に沿った安全な自律飛行に向けた検証である。ドローンが船体に沿って安定して飛ぶ仕組みが欠かせない。
エクサはこれまで、デジタル空間上に再現した環境で、自然言語による指示からドローンの飛行経路を自動生成する仕組みや、画像からサビなどの異常を検知する技術の開発を進めてきた。今回はそれを実船の環境で試す段階に入る。実際の船体は、形状や塗装の状態、サビの進み方が一隻ごとに異なる。屋外では風や光の条件も刻々と変わり、港湾や乾ドック内という限られた空間での運用も求められる。仮想空間では再現しきれない条件のもとで検証することで、開発してきた技術が点検現場で本当に使えるのかを評価し、実用化に向けて解決すべき課題と現場で求められる要件を明らかにする狙いだ。
4社が担う役割分担
この実証実験は、エクサと東栄汽船の2社だけではなく、技術協力する2社を加えた体制で進められる。エクサは、JFEスチールの現場で培ってきた大規模な3D点群データの処理技術やデジタルツイン技術を基盤として、プラットフォーム全体の企画と開発、技術統合および実証実験を推進する。エクサは2026年9月1日に、JFEスチールの現場で培った技術を基盤とするフィジカルAIプラットフォームの開発本格化を発表しており、今回の実船での検証はその具体化といえる。
東栄汽船は、自社保有船舶を実証フィールドとして提供する。1960年の創業以来、船舶貸渡業を通じて物流インフラを支えてきた同社は、新規事業と海事領域を掛け合わせた事業創出を推進する「X Innovation」の取り組みの一環としてこの実証実験に参画している。ドック事業者をはじめとする海事関連事業者とのネットワークを活用した実証フィールドの構築や関係者との連携に加え、海運事業者の視点から実証テーマの具体化や現場適用性の検証にも参画するという。現場の知見を持つ船主が検証に入ることで、机上の技術が現場で使える形に磨かれることが期待される。
技術協力する2社の役割も具体的だ。株式会社エアロネクストは、乾ドック内や狭い船内環境も見据えたドローンの機体選定や設計支援、実証実験におけるテスト飛行の支援や自律・遠隔制御技術の助言を担う。株式会社Forcesteed Roboticsは、ドローンなどから取得したデータを現場側で処理するエッジAIの検討と実装支援、取得データの認識や分析の支援を担う。機体、現場処理、プラットフォームという役割が分かれている点が特徴的だ。
目指す先は乾ドックの工程短縮と他産業への展開
エクサは、この実証実験で得られるデータと知見をもとに、異常検知の精度向上や点検対象の可視化など、船舶保守・点検ソリューションの実用化に向けた開発を進めるとしている。これにより、保守・点検業務の安全性向上と、乾ドック内の点検関連工程の大幅な短縮を目指すという。船をドックに入れる期間は、そのまま運航できない期間でもある。点検工程が短くなれば、船主にとっての経済的な意味も大きい。
さらに、このソリューションで得られた技術や知見をフィジカルAIプラットフォームとして共通化し、体系化することで、製造業の工場設備や社会インフラなど他の産業領域への展開も検討していくとしている。船体という複雑で過酷な対象で通用する技術は、工場や橋梁などの点検にも応用できる可能性がある。今回の実証実験は、その第一歩として位置づけられる。
もちろん、実証実験の開始は実用化そのものではない。実船での検証を通じて、風や光、船体ごとの個体差といった現実の条件が、技術にどのような課題を突きつけるのかが明らかになるはずだ。結果がどう出るかはこれからの検証次第だが、熟練技術者の経験に頼ってきた船舶点検に、データとAIによる新しい目が加わろうとしている点は注目に値する。2026年11月に始まる実証実験の成果が、海運業界の点検の姿をどう変えていくのか、引き続き見守りたい。
Frequently Asked Questions
エクサと東栄汽船の実証実験はいつ始まるのか
実証実験は2026年11月に、東栄汽船の所有船で開始される予定だと発表されている。発表日は2026年10月29日で、ドローンとAIを活用した船舶保守・点検ソリューションの実用化に向けた検証が目的だ。
実証実験では具体的に何を検証するのか
船体外板を対象に、ドローンによる3D点群データと画像の取得とデジタルツインの構築、AIによるサビなどの異常検知とデジタルツイン上での位置の可視化、船体に沿った安全な自律飛行に向けた検証の3点が検証される。
この取り組みは船舶業界にどんな意味があるのか
ドローンの活用により作業員が危険な場所へ立ち入る機会を減らし、点検の評価や判断をより客観的なものにすることが期待されている。乾ドック内の点検関連工程の大幅な短縮も目指されており、将来的には工場設備や社会インフラなど他の産業領域への展開も検討されている。

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