キヤノンが露光装置を2027年に最大2倍増産:AI半導体ブームを支える「影の主役」
スマートフォンのカメラで知られるキヤノンが、半導体業界の「縁の下の力持ち」として大きな賭けに出ました。2026年10月21日、同社は半導体製造に欠かせない「露光装置」の生産を2027年に前年比で最大2倍まで引き上げる計画を明らかにしました。AIの普及で半導体需要が急拡大する中、装置メーカーの動きは半導体ブームの「本気度」を測るバロメーターでもあります。今回の発表が意味するもの、そして残るリスクを整理します。
発表の中身:2027年は340~450台規模へ
報道によると、キヤノンの計画では2026年の露光装置の生産台数は227台の見込み。これを2027年には1.5倍から2倍、つまり340~450台程度の規模まで増やす方針です。単なる能力増強ではなく、需要の伸びに応じた「倍増」という表現が使われた点が注目されています。
増産の拠点になるのは、2025年に完成した栃木県宇都宮市の新工場です。装置の搬入や本格稼働に向けた準備が進められており、この新工場の立ち上がりが倍増計画の成否を握ります。キヤノン自身の統合報告書でも、AI関連の旺盛な需要を背景に先端パッケージ向けの露光装置などの販売が大きく伸びたと説明しており、今回の増産はその延長線上にある動きです。
なぜ今、倍増なのか:AIが生んだ「装置需要」の波
背景にあるのは、生成AIの普及に伴う半導体の需要急増です。データセンター向けの先端チップだけでなく、メモリーやパワー半導体など幅広い分野で増産投資が動いており、半導体メーカーの設備投資が装置メーカーの受注に波及しています。
産業機器を担当する武石洋明専務は取材に対し、「台湾や韓国、中国だけでなく、世界中の半導体メーカーで投資計画が動いている」と述べています。つまり今回の増産は特定の国や顧客に依存したものではなく、世界的な投資サイクルの広がりを見越した判断だということです。同氏はさらに、需要の拡大が「28年までは継続する可能性がある」との見通しも示しました。
半導体業界では、装置の納期が工場の稼働時期を左右するため、装置メーカーの生産能力そのものがボトルネックになりがちです。キヤノンが今のタイミングで倍増を打ち出したのは、取りこぼしを防ぐための先手とも読めます。
EUVはASML、i線はキヤノン:棲み分けという現実
露光装置といっても種類はさまざまです。半導体の回路をウエハー(基板)に光で焼き付ける工程で使う装置ですが、最先端の微細化を担う極端紫外線(EUV)露光装置はオランダのASMLが事実上独占しています。
一方、キヤノンの強みは別の領域にあります。メモリーやパワー半導体の製造工程で多く使われるi線露光装置でトップシェアを持ち、こちらが今回の増産の中心です。最先端ロジックの華やかさはありませんが、メモリーやパワー半導体はAIサーバーや電力制御に不可欠で、需要の裾野は広いのが特徴です。
この棲み分けは、キヤノンにとっては弱みではなく戦略です。ASMLと真っ向からぶつかるのではなく、自社が強い領域で確実にシェアを取り、AIブームの「量」の部分を押さえにいく。倍増計画は、その戦略に自信があることの表れともいえます。
宇都宮の新工場が鍵を握る
計画の成否は、宇都宮の新工場がどれだけ速く、どれだけ安定して稼働できるかにかかっています。半導体製造装置は一台が巨大で、組み立てから出荷前の調整までに長い時間を要します。単に工場の床面積を増やせば台数が倍になるわけではなく、熟練技術者の確保やサプライチェーンの整備も欠かせません。
キヤノンの統合報告書によると、関連事業ユニットの2025年の売上高は3,611億円で前期比2.7%増。AI関連需要の追い風はすでに数字に出始めています。とはいえ、227台から最大450台へというジャンプは大きく、生産現場の負荷は相当なものになるはずです。増産の発表と同時に、品質を落とさずに納期を守れるかが問われることになります。
リスクも残る:2028年以降の投資サイクル
楽観ばかりはできません。半導体業界は歴史的に好不況の波が激しく、装置メーカーはその波を最も強く受けます。武石専務が「28年までは継続する可能性がある」と述べた裏を返せば、その先の見通しは不透明だということです。
もしAI需要の伸びが鈍化したり、半導体メーカーが投資を先送りしたりすれば、倍増した生産能力が重荷に転じる可能性もあります。過去の半導体サイクルでは、装置の発注キャンセルが相次いだ局面もありました。キヤノンの判断が「読み」として正しかったかどうかが分かるのは、2027年から2028年にかけての実績次第です。
とはいえ現時点では、世界中の半導体メーカーで投資計画が動いているというのが同社の認識です。装置の倍増は、需要の実態に対する回答であり、AIブームがまだ「設備投資の段階」にあることを示すシグナルでもあります。消費者向けのAIサービスが話題の中心になりがちですが、その裏側では工場と装置の静かな競争が続いています。
Frequently Asked Questions
露光装置とは何ですか?
半導体の材料となるウエハー(基板)に光を照射して、電子回路のパターンを焼き付ける装置です。半導体製造の「写真製版」のような工程で、チップの性能や歩留まりを左右する重要な設備とされています。
キヤノンの露光装置の強みは何ですか?
最先端のEUV露光装置はオランダのASMLが独占していますが、キヤノンはメモリーやパワー半導体の製造で使われるi線露光装置でトップシェアを持っています。AIサーバーや電力制御に使われるこれらの半導体は需要の裾野が広く、今回の増産の中心となっています。
2028年以降の需要はどうなる見通しですか?
キヤノンの武石洋明専務は、世界中の半導体メーカーで投資計画が動いており、需要の拡大は「28年までは継続する可能性がある」との見通しを示しています。ただしその先は不透明で、半導体業界特有の好不況の波がリスクとして残ります。



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